What are little girls made of?
What are little girls made of?
Sugar and spice
And all that's nice,
That's what little girls are made of.

『おんなのこは何でできてるの?
 おんなのこは何でできてるの?
 おさとう スパイス
 せかい中の すてきの全部
 そんなもので できてるの』

――マザーグースのうた。



 っていう詩があった。
『おさとう スパイス せかい中のすてきの全部』
 あぅ……なんか、いいなぁ……はぅぅ……。
 あたしはこんな字ばっかりのはあんまり好きじゃないんだけど、美汐が
「こういうのもちゃんと読まないと将来苦労しますよ」
って言って読まされたんだ。
 初めて知ったんだけど、詩って漫画みたいに絵があって、字が書いてあるんだね。
 だからなのかも。
 あたしは、詩ってものが大好きになった。

 そして。
 あたしもこういうのが作りたくなったんだ。



らぶ☆ぽぃっと 真琴 [Macoto the Love Poet]



「道は長くて険しいですね……」
 あたしの作品を聴いてた美汐は、なんだか疲れたような顔でそう言った。
 何だか叱られた気分よぅ……。
「あぅー。美汐……真琴、なんか悪かった?」
「真琴。さっきの作品をもう一度詠んでみて下さい」
「あぅ……どれ?」
 あたしは詩を美汐に聴いてもらいたくて、美汐の家に遊びに来ていた。そこで今まで書いた詩を30個くらい聴いてもらったんだけど。
「一番最初ので良いですよ」
 聴き終わった美汐はなんだか不機嫌そう……真琴、美汐を怒らせるようなコト言ったのかなあ。最初は自信まんまんだったのに、今は読むのが美汐に悪いって気分になっちゃうわよ。
「あぅ……読むね……。
『オイシイ しろい 肉まん オイシイ』
 …………どう?」
 ノートを開いて詩を読んだら、閉じている美汐の右のまぶたがぴくって動いた。これって美汐が怒るのを我慢するときの癖なのよぅ……。
 どうなるんだろうって思って見てたら、美汐が目を開いていきなり真琴を指差したの。
「真琴! この作品で自分に足りないものを感じませんか?」
「あぅ?」
「『おんなのこは何でできてるの?』と較べて、真琴、自分の作品はどうかと訊いているんですっ!」
 急に立ち上がった美汐が、あたしを上から見下ろしていた。腕組みしてるぅ……。
 何か美汐がいつもと違う……。
「さあ、答えなさい真琴ッ!」
 美汐が一歩迫ってきた。とっても怖い。
「あぅ……わかんない……」
 って答えたその瞬間。美汐が物凄い剣幕で怒り出した。
「それで詩歌を語ろうとは、片腹痛いですよ、真琴!」
「あぅっ!?」
「今日は私が徹底的に教えてあげますッ! 覚悟しておきなさい」
 そしてあたしは、美汐の部屋に閉じ込められてしまったの…………。




『真琴。あなたには語彙と修辞の力が決定的に足りていません』
『簡潔なのは良いことですが、簡潔にして要領を得ずでは意味がありません』
『まず本を読みなさい。そして語彙を増やすのです』
『語彙を増やすとは……ちょっと曖昧な言い方ですが、日本語の単語を覚えなさいという事ですよ』
『いきなり修辞全般は難しいでしょうから、まず比喩表現を覚えましょう』
『遠まわしな表現で身の回りのものごとを書いてみるんですよ』
『例えば秋子さんを言い表すのに、春の風のように暖かで柔らかく馨しい秋子さん、というようにです』
『知っている言葉を使って、なるべく思っていることをちゃんと伝えられるようになれば、真琴の詩も随分と良くなる筈です』

 ふふふ……。
 真琴はやったわよ……。
 あの日に美汐に叩き込まれた教えを守って、ごいとしゅーじってやつを極めたのよぅ!
 そんでもって日曜日。先週はあたしが美汐ん家に行ったから、今日は美汐があたしん家に来る約束。
「お邪魔します」
 いつものよーに丁寧な挨拶をした美汐に秋子さんが
「今日はケーキを焼いてみたの。美汐ちゃんも食べてね」
と言って、みんなでリビングへ。
「おー、天野。遊びに来たのか」
「こんにちは相沢さん、水瀬先輩」
「いらっしゃい、美汐ちゃん」
「水瀬せんぱい……ちゃん付けは、ちょっと」
 そんな感じでお茶会が始まった。

「じゃあ、真琴。解っていますね?」
「んー」
「口にケーキを詰めたまま返事をしてはお行儀が悪いですよ」
 ケーキ(秋子さんは何だか難しい名前を言ってたけど、わからなかった)を突付きながら美汐が言った。ついに真琴の努力の成果が試されるのね。
「それじゃあ、相沢さんについて話してみてください。真琴から見て、相沢さんってどんな人ですか?」
 美汐の出した問題に、祐一が『なになに?』って感じの顔でこっちを向いてくる。名雪もきになってるみたい。
 みんなが見てるわよ、真琴。今こそしゅーじのぎほうって奴を見せる時よ。

「えとね。夜にね、祐一の部屋に遊びに行くとね、祐一っていつもツンツン硬くとんがっててね、んーと、そう、あらあらしくてちょっと怖いのよ」

 あれ? 美汐の動きがちょっと止まった。名雪もなんだか不思議そうな顔してるよ。

「時々お仕置きだって言って、指で散々真琴を苛めるし。真琴はヤだって言ってるのにね」

 がちゃん、って音がした。祐一が紅茶のカップにフォークを落とした音。

「でもね、いつもすぐにふにゃふにゃになってね、真琴のこと優しくしてくれるの」

 あらあらとつぶやく声が聞こえた。秋子さんだ。いつもの微笑みを浮かべた顔が、少しだけうつむいている。
「ふにゃふにゃなんですか、祐一さん?」
「何がですかッ!?」
 祐一ちょっと怒ってるみたい……どうしてかな。

 でも、真琴は祐一と一緒に寝るときが大好き。だって
「時々怖いけど、祐一の暖かいのが真琴の中に広がってきて……そんな時がとても好き。
 ぴろもいいけど……やっぱり祐一の方がいいから」

祐一の暖かい気持ちや優しさが解るから。真琴はひとりじゃないんだって解るから。

 あれ? いやに静かね。
 気が付いたら、みんながびっくりしたような顔で真琴を見ていた。
 考えてみたら、真琴かなり恥ずかしい事を言ったんじゃあ……?





 いきなり顔を真っ赤にした真琴が、あぅーと叫びながらリビングを飛び出して行ってからというもの、ここの空気は拷問器具のようにぴりぴりと肌を刺す。
「祐一ィ……」
「はイっ!」
 ゆらりと揺らぐ陽炎を纏った従妹兼裁判長の名雪様が、ゆっくりと俺を呼んだ。
 いつものポーズなのに、口元は普段の微笑みのままなのに、目元だけが深い影になっていて表情が読めない。
「何か、言う事はある?」
「お、俺は何も……」
「相沢さんが、そんな破廉恥な方とは知りませんでした」
 俺の弁明を途中でさえぎった天野さんは、まるで汚物を見るような目。
「真琴にあそこまで……一体あなたは何が望みでああいうことを言わせるんですかッ!」
 ああ、目じりに涙まで浮かべて……そんな風に言われると、とっても俺が悪者のようです。でもそろそろいい加減に勘弁して下さい。
「あらあら。若いって羨ましいわね」
 にこにこ微笑んだ秋子さん、あなたの一言が、罠の口を、閉ざしてしまいました。

 今回のコンセプトを思い出した天野が、とりあえず真琴には修辞よりも正しく綺麗な日本語を覚えさせるのが先だと気付くまでの2時間、そりゃもう凄かったさ、俺の扱い。



(オチてない)







 えーと。
 書いた人間です。
 頭わるくてゴメンなさいm(_ _)m
 美汐の指導も筋が通ってない上に全然ダメでゴメンなさい。