「祐一さん、逃げましょう! 愛の逃避行ですっ! ごーあうぇーふぉーらぶですっ!! あ、名雪さんは要りません」
 魂消る悲鳴(?)を残し、栞が祐一に攫われてしまった!
 夜になっても帰ってこない妹を案ずる姉、香里。
「あの馬鹿……。まさか栞にイケナイ事してんじゃないでしょうね」
 時計の秒針の音が嫌に大きく聞こえる部屋。空気だけが冷たく、重たく香里にのしかかる。
 待ちつづけて午後10時、遂に香里、切れる。
「相応の覚悟の上、という訳ね。判ったわ……」
 独り、自室を出る香里。目指すは囚われの栞ただ一人。



 家を出た香里を取り囲む男達の影。
「誰!?」
「陛下! 我ら紅軍兵士総勢208名、どこまでもあなたにお供します!」
「だけど、これはあたしの家庭の問題よ。あなた達の手を煩わせるわけには……」
「俺達も栞ちゃんを助けたいんだ」(良い笑顔)
「相沢の奴も殴りたいし」(良い笑顔)
「あなた達……」

『仲間と友情』



 突如響く銃声。隣を歩いていた戦友が横から殴られたように倒れた。
「ロバートがッ! 衛生兵メディック衛生兵ーッメディーック!!」
「……故郷に帰ったらメアリーに伝えてくれ……俺は、お前を愛していたと」
「馬鹿野郎! 伝言サービスは先週で休業だ。んな事ぁ自分で言え」
 散発的に轟く戦場音楽を聞きながら、受話器を握った男がまくし立てる。
「何? 俺たちが近すぎるだと? 構わん! 俺達のファッキンな頭の上にお前等のファッキンな糞を垂れ流せ! 俺達ごと奴等を吹き飛ばせ!!」
 厳しい状況を目にして、香里は眉を顰めた。
「さすがに水瀬の家は一筋縄では行けないわね……」
 その時、右より聞こえた、まるで瓶ビールの栓を抜くような音。香里は横から飛び付かれて押し倒される。
迫撃砲モーター! 迫撃砲モーター! 頭を下げろ!!」
「退避ー! 退避ー!!」

『危険と戦慄』



 漸くの思いで侵入した水瀬邸。声を潜めた香里が仲間に指示を出す。
「良いこと。目標はあくまで栞だけよ。他の物には目もくれないで」
 カツン。妙に甲高い音に次いで廊下を転がってくる小さな物体。北川が何の疑問も抱かずに拾い上げたそれは──ジャムの瓶。
「美坂、こんな物が……マーマレードか?」
「捨てなさいッ!!」
 香里の手が素早く北川の手の物を弾き飛ばす。いきなりの仕打ちに抗議しようと北川が口を開いた瞬間、突然に立ち上る噴煙。突然に塞がれた視界と、刺激性の気体が一同を襲う。
「状況、ガースッ!」
「ぐぁ、バルサンで煙幕を!?」
「あ、それ俺」

『罠と背信』



「はふ。……もう、祐一さんったら子供みたいです」
「オトコはいつまでも子供なの!」
「あ、そこ良いです」
「ここだなー」
 数々の障害を乗り越え、香里とその仲間達は囚われの栞を助けることができるか!?

 友情と信頼で結ばれ、一つの目的に向かって邁進する少女と男達の物語。




『プライベート・しおりん』

"Privata Shiorins"
lib. II. de fabula "Regina Tribunusque equitium."




 ネーミングセンスの無さを嘆きつつも脳内劇場で好評上映中、だといいなあ。