「真琴、こんにちは」
「み、美汐っ!?」
 突然に現れた美汐の姿に、バイト中の真琴吃驚。ちなみに真琴の仕事場はいつもの保育所ではなく、某大手CD屋。夏休み中は仕事が無いそうな。
「どうしたの、真琴?」
「ううんっ! なんでもないよ。えへへ。来てくれたんだね」
「真琴が働いているところを見てみたかったからね。お邪魔だった?」
「ううん。そんなこと無いっ!」
 ぶんぶんと勢い良く首を横に振って、にぱっと否定。
 忙しそうに立ち働いていたのは確かで、真琴には暇が無いのも確かだったが、美汐は客なのだ。客に尋ねられたら案内するのは店員の仕事だろう、真琴はそう考えて自分を正当化した。
「で、今日は何を見にきたの美汐?」
「しーでーをください」
「へ?」
 一瞬、動きが止まる真琴。
「ですから、しーでーをください」
「……あ、CDのこと?」
「しーでーです」
「う、うん。何のしーでーが欲しいの?」
 さりげなく訂正を入れたつもりの真琴に、美汐はやけに強気で再訂正。
 真琴、心の何かを強引に汚された気がして心中でこっそりと落涙。
「相沢さんにお薦めを聞いたら『へちっしゅ』とか『でーでーてー』とかいうのを薦められたけど……」
「へちっしゅ? でーでーてー?」
 祐一の好みは真琴も承知していたが、美汐が言ったそれは真琴にとっては未知の単語。脳内記憶を必死で検索してみるも、ヒット件数はゼロ。
「えと……。美汐、それ誰のことだかわかんない……」
「何ですか真琴。しーでー屋の店員として不勉強ですよ。仕方ありません、偉い人を呼んで来てくれないですか?」
 その後、真琴が連れてきたフロアチーフに美汐が説明した言葉が通じたかどうかは、何故か美汐に厳重に口止めされたので内緒なのだ。




(おわり)

アと書KI
 ……己の働く業種ではDとTを「でー」「てー」と発音します。HDDは「えっちでーでー」、CD(結合試験)は「しーでー」です。
 このままだと、いつかTシャツを「てーしゃつ」と言いそうです……。

すぺーさー♪すぺーさー♪すぺーさー♪すぺーさー♪