日曜日の昼下がりに玄関のチャイムが鳴った。
「美汐ー。出て頂戴」
 夕餉の支度をしている母親からの声。どうやら手が離せないらしい。私はコタツから出ると、半纏を羽織って玄関へ向かった。
「はい、どちら様ですか?」
「みしおー? あたし、あたし!」
「真琴ですか? 『あたし』ではなくちゃんと名乗りなさいとあれほど」
「良いから開けてよぅ!!」
 相変わらずの真琴にやれやれと思いながら、私は玄関の鍵を開けた。
「どうしたんですか、珍しいですね──」
 驚いた。
 真琴は私の高校の制服を着ていたのだ。
「えへへー。どう?」
 得意げな真琴はその場でくるりと一回り。勢いの良い回転に、スカートの端がひらりと舞った。
「真琴、そんな事をしたら下着が見えてしまいますよ」
「あぅっ!? 見えた?」
 本当は可愛らしい柄が見えたのだけど、本当のことを言っても恥ずかしがらせてしまうだけだろう。ここは柔らかく嗜めるだけにしておこう。
「見えることもあるから気を付けましょうね」
「じゃあ、じゃあ、今くらいのだったらまだ大丈夫ねっ」
 ……効果無しだった。真琴も女の子だからと思っての気遣いだったのに。元気にぴょんぴょん飛び跳ねる真琴はとっても可愛いのだけど。
「ところで真琴。その制服は?」
「うんっ! 名雪のね、秋子さんに言って借りちゃった」
 なるほど。だからリボンの色が3年生の紅色だったんだ。
「でね、美汐も制服で一緒に写真撮ろ!」
「はいはい。待っててね、真琴先輩」
 真琴のたっての頼みとあらば、否応がある筈も無い。
 私は部屋に戻り、ハンガーに掛かっていた制服の緑色のリボンを解いた。

 その日に制服に着替えさせられて撮影したシールを、真琴は自分の携帯電話に貼り付けて相沢さんに見せたらしい。
「“赤いきつねと緑のたぬき”って言ってたけど、何のことだかわかる美汐?」
 相沢さん。今度会ったら絶対にぐーで殴ります。




(おわり)