表紙 |
Dispel Magic 1(魔法少女リリカルなのは SS本 文庫版サイズ 本文96ページ) カバーイラスト・挿絵:草上明さま ゲストイラスト:牧原巌さま |
辞めてやる、もしも無事に帰れたならきっと辞めてやる。
アルフェッカ・シャトルの機長席で殺意すら籠めて辞意を念じながら、マージ・ニコルズは機体を降下させ始めた。アルフェッカ・シャトルとは、次元航行船アルフェッカ号に付属する地上往還機、すなわち惑星上と衛星軌道上を結ぶシャトル機である。次元航行船そのものに大気圏突入能力が無いため、付随船であるシャトルがその部分の機能を担っている。 彼女はシャトルを駆ってこの管理外世界に降下してきたのだが、彼女にとって大変に不本意なことに、とても手荒い歓迎を受けていた。 ヘッド・アップ・ディスプレイにさっと目を通して、マージはシャトルの管制人格と副機長に命令を下す。 「緊急加速即時待機──」 "Yes, ma'am."(了解しました) 快晴の空を背景に凍てついた白い氷原がぐんぐんと迫ってきているのが、キャノピー越しに見える光景と、キャノピーに投影されたサブミリ波レーダーによる側高距計の数値で確認できた。港への着陸以外でこのような光景を見ることは、普通の船乗りにとっては出来れば一生涯したくない事だ。見えるものはつまり、不時着の時の光景だからだ。しかしマージは、それを意図してやらなければならない状況に追い込まれている。シャトルの低すぎる航跡に驚いて高度警報を鳴らし続けていた管制人格には、既に一時的な警報の停止を命じてある。 操縦桿を引いてしまいたい誘惑に駆られながら、魔力炉の出力計がレッドゾーンまで上がってゆくのを焦れながら待つ。実際には二秒も掛からない筈なのだが、地表衝突の可能性が頭の片隅にちらついている彼女にはこの時間が永遠にも等しい長さに感じられる。そして表示は規定値に達した。 "I'm just ready for Emergency-Acceleration."(緊急加速準備良し) 管制人格の報告を聞き、ラダーペダルを中立に戻して舵を当てていた操縦桿を一気に引き倒し、シャトルを左旋回から直進上昇に入れた。重力に負けて、一瞬、シャトル速度が落ちる。 「今!」 "Start." そして一気にスロットルを前方へと押しやる。後ろから蹴り飛ばされたような衝撃は数瞬遅れてやってきた。 カキ氷のようになるまで冷やされた水素が魔力炉のエネルギーを受け取って急激に気化膨張し、衝撃波を後方に向かって吐き出したのだった。マジカル・リアクター・ドライブと呼ばれる魔力炉を用いた推進機構に特徴的な白色の魔力光を散らしながら、高温の排気が地表に叩き付けられる。凍てついた氷床とその上に降り積もった雪とが瞬時に蒸発して衝撃波を生み、周囲の雪を煙のように吹き飛ばした。 建造から今まで、同い歳の人間であれば成人どころか子供が独立してしまうような年月が経過したが、老嬢アルフェッカ・シャトルは新造時スペック通りの最大推力を健気にも草臥れたエンジンから叩き出して、ほぼ地表と言っていい高度からの加速上昇を始めた。そのすぐ後ろを数条の光弾が、そして楔形の物体が斜めに通り過ぎた。真っ直ぐに飛ぶ光弾はそのまま地面に潜り込み、そして爆発した。もうもうたる雪煙が上がる様がシャトルの後方監視レーダーのモニターに映る。
魔法少女リリカルなのは
Dispel Magic 1
高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、そして八神はやての3人は、小学校6年生として生活する傍ら、数多存在する世界の法の守護者である時空管理局の魔導師としても勤務する少女達です。
ある日なのはとフェイトは巡航艦アースラより呼び出されます。時空管理局よりアースラに任務が下されたのです。その任務は、救難。
「救難任務?」
「ああ」 なのはの質問にクロノは重々しく頷いた。 「先ほど時空管理局の本局から連絡があったんだが、第一九二管理外世界を探索中の民間企業の船から救助要請があった。そこから一番近くに居る高機動艦のアースラに、救出命令が下された」 はやてがレティ提督の任務で去った直後、アースラに新たな任務が課せられたのだった。 クロノになのはとフェイトは頷いた。子犬のなりをした使い魔のアルフはフェイトの膝の上でふんふんと鼻を鳴らしている。 「そこで君達三人にも手伝って欲しい」 クロノの言葉に即座に頷こうとした三人を手で押し留めて、 「返事の前にちょっと説明させてくれ」 クロノは言葉を継いだ。 「目標となる世界はちょっと遠いから、任務中に通学をするのはちょっと難しい」 「仮設の中継ポートを設置して転送しても片道二時間くらいかかるんだよ」 「それはちょっと、大変だね」 助手のエイミィ・リミエッタがクロノの言葉を補い、思案顔のフェイトが頷いた。 「その上現地の環境がちょっと特殊なんだ。ちょっと見てくれないか」 クロノが中空に光のコンソールを浮かび上がらせてその中のキーの一つに触れると、会議室のテーブルの上に真っ白い球体が浮かび上がった。微妙に異なる色合いの横縞のマーブル模様があり、ゆっくりと回転している。 「これが第一九二管理外世界の、目標船が遭難したらしい惑星だ」 「……綺麗」 「うん、真っ白だね」 「……だが、これは死の世界だ」 「えぇ!?」 ぽつりと呟いたクロノの言葉になのは達は驚きの声を上げた。 「全球凍結──星が丸ごと凍りついてるんだよ」 エイミィが表情を曇らせながら言った。 「まだ発見されたばかりで詳しいデータは揃っていないんだが、赤道まで凍結しているところを見ても、平均気温はかなり低い筈だ」 「まだ遭難者の状況は良く判らないんだけどね、もしも惑星に降りていたら」 「カチンコチンに凍っちまうねぇ」 アルフが面白くなさそうにコメントした。 「その通りだ」
しかし、その世界はただの未開世界ではなかったのです。
「……何? これ、どういうこと!?」
エイミィのただならない声にリンディはブリッジ前方のスクリーンモニターに視線を遣った。 モニターに映っていたのは宇宙に浮かぶ港のような建造物だった。画面の端にパラメータが細かく記されているのを見てとり、リンディは艦長席のモニターに同じ映像を表示させた。表示されたパラメータは、これが前方約三十万キロメートルに位置する静止軌道にある比較的大きな天体を映したものであることを示していた。 港のような、とリンディは思ったが、近くのモニターで見てみると、益々そう思えて仕方が無い。大きさはおおよそ一辺が一キロメートルの立方体の中にすっぽり収まる程度。船の係留のために伸びた、恐らくボーディングチューブを兼ねている構造物、その横に控えている箱型の格納庫かドック、その背後に時空管理局本局のようなビルが建っている。だが、そのどこにも明かりは灯っていない。これがどのような施設であっても、活動している様子は無い。 「これは、人工の衛星ね」 リンディは断言した。どうみても天然自然の力の影響で完成する構造体ではない。 「そ、それはそうですけど、ここはこの前発見されたばかりの世界ですよ?」 エイミィの戸惑いも致し方無い。新たに発見されたばかりの世界で、しかも生命活動が無い死の星しか無いという報告を受けていたのだ。大抵は、過去に生命が生まれなかったものと想像する。 「過去に誰かがこれを建造したのは確かよ。それが外から来たのかこの世界で生まれた命なのかは判らないけれど」 「となると、今は」 「星ごと放棄されたか、文明ごと生命が滅びたか、どちらかね」
そして
すぐ目の前の空中に円形の魔法陣が白色の魔力光で描かれた。どこからか転送されてきた魔力が魔法陣から立ち昇って、光で何か、いや誰かの形を作った。
"Wulves Sithie." 意味の解らない言葉とともに光が弾け、中から女性の姿が現れた。彼女は表情の乏しい顔でなのは達を見据える。薄青い瞳の奥で何を思っているのか測り辛い。バリアジャケットというにはあまりにも見慣れない服装だった。次元世界の歴史にまだ馴染んでいないなのはには判らなかったが、それは歴史的な衣装だった。歳の頃は二十歳前か。リインフォース、闇の書と呼ばれていた彼女に少し似ている、とフェイトは思った。 "Hwa sind ge, Silvanisc? Gan ut, here is min lyft." 表情に感情が乏しいなら、声もそうだった。自然体で浮いている彼女がそのように淡々と語ると、得体が知れなくて何となく空恐ろしい。 なのはが一歩前に出た。 「あ、あの! 私達は時空管理局の者で、遭難者の救助に来ました!」 "Hwaet dydest thu secgan?"
魔導師達が
厳冬の世界で出会う 遺失魔法。
魔法少女リリカルなのは
Dispel Magic 1 |
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23ページに脱字がありました。これはネーム作成時の作業ミスによるものです。
誤
%の命中率を持つ誘導弾十発に追われた時に無傷で居られる確率は %程だが、1%の命中率の弾丸十発の場合ならそれは %になる。
正
10%の命中率を持つ誘導弾十発に追われた時に無傷で居られる確率は35%程だが、1%の命中率の弾丸十発の場合ならそれは90%になる。 以後、このような事が無いように注意します。 |