表紙 |
Dispel Magic 2(魔法少女リリカルなのは SS本 文庫版サイズ 本文54ページ) カバーイラスト:草上明さま 奥付イラスト:牧原巌さま |
高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは小学六年生として普通の学生生活を送りながら、時空管理局の嘱託魔導師として働く勤労魔法少女です。彼女たちのお仕事は、フェイトの義理の母と兄であるリンディとクロノ、そしてリンディ率いる次元航行艦アースラのスタッフと共に次元世界の秩序と平和を守る立派なお仕事です。 一方、救難対象の民間人二人は、惑星の氷河の中にかつての文明の遺跡を発見していたのです。
魔法少女リリカルなのは
Dispel Magic 2
魔導師との戦闘から辛くも撤退したなのは達は体勢を立て直す為に、一旦アースラへと戻ることになりました。
「すみません。私が……」
更に気落ちしてしまったなのははしょんぼりと謝った。 言葉を続けようとしたなのはを遮って優しい表情を作ったリンディは諭した。 『待ってなのはさん。何に謝っているのか私には判らないわ。だけど何か問題があって、何がいけないのかが判っているなら、次にその反省を活かせば良いのよ。 それに、こんなことになるなんて予想せずに予備カートリッジを持たせずに行かせてしまったのは私のミスです。ごめんなさい』 「そんな、リンディさんは悪くは……」 『いいえ、これは本当に私のミスなの。全く障害が無いことを前提にしていたなんて、何も言い訳出来ないくらいの判断ミスだわ』 それは違う、となのはは思ったが口には出さなかった。 実際、この惑星に生物が居ることは誰も事前に予想していなかったのだ。それはこの惑星の環境が過酷であったためだ。だからこそ魔導師の抵抗があるとはリンディもクロノも想定していなかった。そのことはなのはも妥当な想定と納得している。 リンディ達の想定と現実に違いがあったことは事実だが、この過酷な氷だけの世界に、救難任務で訪れた時空管理局以外の魔導師が居るだなんて普通は予想出来るものではない。だから想定が外れて所属不明の魔導師が居たこと自体が酷いイレギュラーなのだ。イレギュラーな出来事はリンディ達の責任ではない。なのはの認識はこのようなものだ。 『準備が不足しているのに何でも上手にするなんて、私には出来ません。きっと誰でもそれは同じ。だからなのはさんがミスをしたということではないの。なのはさんが気に病むことじゃないわ。それに、みんな無事なんですもの。誰もなのはさんを責めたりはしないわよ』 リンディはそう言って締め括った。 「それで艦長。対策についてですが、情報収集計画が破綻していますし、これからは、多分……戦闘も考慮しなくてはいけないので、一旦アースラに戻ろうと思います」 『そうね。他のアプローチも試してみましょう。一旦戻って下さい』 「了解」 通信を終えたクロノが転移魔法で門を開くのを見ながら、なのははリンディの言葉に素直に頷けない自分を認識していた。 カートリッジの残弾数が不足なら不足なりに、最初から逃げるなど他の方法も採れたし提案も出来た筈なのだ。何も馬鹿正直に相手に付き合って戦端を開く必要も無かった。 それに、相手の能力や力量を推し量る前に自分達の得意とするコンビネーションや陣形に拘った、そのこと自体も失敗である。言い換えれば「相手を侮っていた」とも言える。それは空戦魔導師として、どう贔屓目に見ても、ミスであるとしか言いようが無かった。 そしてそんなことを考えるにつれ、なのはの心は苦くて重い何かに圧し潰されそうになった。知らず知らずの内にレイジングハートを握った左手に力が入り奥歯を噛み締めた。
フェイトとアルフはそんななのはを気遣いますが、なのはは彼女たちの優しさを素直に喜べませんでした。
"Master!"
レイジングハートの警告が響く。背後から戦闘機械が至近に迫っていた。なのはは四発のアクセルシューターを背後に飛ばして防御と迎撃に当たらせた。 戦闘機械は徐々に二手に分かれ始めている。アルフがあちこちの編隊を叩いて回ってくれている為に、先程の接近した機体を迎撃した後には危険は残っていないものの、徐々に余裕は無くなってきていた。残り八発のシューター弾では心許無くはあるが、弾の補充は出来ない。消費した弾丸を補充するためには展開中のエクセリオンバスターをキャンセルしないといけない。それは砲撃を諦めることと同じだった。それでは意味が無いのだ。 (もっと、早く照準を合わせなきゃ……!) 激しく動く魔導師に苦労してレイジングハートを追随させながら、呻くようになのはは思う。不正確な照準では近接戦闘中のフェイトにダメージが行きかねない。 そうしている間にも戦闘機械の中には、なのはに機首を向けて射撃をしようとしているものが現れていた。なのはは再びアクセルシューターで迎撃した。残り六発。 焦燥が胸を焦がし始める。だがこれは砲撃を完成させるために必要な時間だ。手を抜く訳にはいかない。 更に四発を消費して、近付いた戦闘機械を叩き落とした。残り二発。 睨みつけている先の魔導師が右腕を振り上げて、フェイトが何かの魔法をラウンドシールドで受け止めた。魔導師の動きが一瞬止まる。その隙を利用して、照準を完成させた。 『フェイトちゃん、避けて!』 念話でフェイトに警告を叫んだ。フェイトはそのまま後ろに飛び退った。即座に魔導師は追撃に移る。 "Barrel Shot." 陽炎のような風景のぶれを発して、レイジングハートから衝撃波と共に不可視のバインドが魔導師に飛んだ。バインドの軌跡に沿って、魔力砲弾のガイドになるバレルが展開されてゆく。 なのははバインドのコントロールに集中した。フェイトを追いかける魔導師にバインドを当てなければエクセリオンバスターの直撃は望めない。だがバレルショットはアクセルシューターのように細かい誘導が出来る魔法ではない。 (当たって!) 祈るかのように念じる。 何者かがその祈りを聞き届けたのかバインドは魔導師に辛うじて届き、彼女の左腕を拘束することに成功した。左腕を切っ掛けにして全身の動きを止め、右腕、両足も次々に拘束してゆく。魔導師はそれまで見向きもしていなかったなのはを睨みつける。 しかし、もう遅い。 "Excellion Buster."
状況把握の失敗も判断の誤りも技倆の不足も、過ちの経験からくる反省や訓練によって正す事が出来ます。なのははその点、自信がありました。
なのはは眼を閉じた。ゆっくりと息を吐いて、顔を横に向けて傍らのレイジングハートに向けた。
「そう、なんだろうね」 "Yes, I think so."(私はそう思います) レイジングハートの言う通りかも知れない。 あの戦闘の時のなのはは、半年前の被撃墜だけではなく、その後の入院とリハビリも思い出して震えていた。それだけではなく、通学路で転んで怪我をした時のこと、ポートボールの授業でボールを受け損ねた時のこと、色々なことが一気に思い出された。全てが恐怖に結びつく記憶ではなかったが、そのような雑多な記憶のフラッシュバックで戦闘に必要な冷静な思考はあっさりと奪われた。今でも、その時に自分が何を感じて、どうしてあのようなことになったのか分析が出来ていない。 レイジングハートは論理的な思考に長けている。客観的な目と冷静な思考から導かれた結論が、もしかしたら解決への近道なのかも知れない。少なくとも今のなのはにはレイジングハートの意見の妥当性を検証出来るだけの材料も、澄んだ思考も無い。 「そうだね」 あの時に恐怖に支配されることが無ければ、少なくとも冷静な思考を保てただろうし、状況に合った戦闘を続けることも出来ただろう。 しかし問題は、どうしたら恐怖に支配されないようになれるか、ということが判らないというところにあるのだ。
挫折した少女
心を痛める少女 夢を追いかける男 それぞれの 胸を縛る魔法
魔法少女リリカルなのは
Dispel Magic 2 |