表紙
Dispel Magic 3 カバーイラスト
Dispel Magic 3(魔法少女リリカルなのは SS本 文庫版サイズ 本文68ページ)
   カバーイラスト:草上明さま
   奥付イラスト:牧原巌さま

「まず、シャトルの位置を確定する。エイミィの説明どおりに軌道を変更し更に観測を行う。
 位置が確定したら、また惑星上に降下して捜索と救助を行う。今度は用心のため、交戦があることを前提にカートリッジを装備して行ってもらう」
 なのはとフェイトは「はい」と頷いた。アルフの返事は「腕が鳴るね!」で、フェイトはそんなアルフを少しお行儀が悪いと思いながらも、この元気の良さと明るさが良いところだと、注意したら良いのか微笑ましく見ていたら良いのか少し迷った。
「何か質問はあるか?
 シャトルの位置特定までまだ少し間がある。君達は呼び出すまではゆっくりしていてくれ」
 質問が無いのを確認して、クロノはなのは達が自室へ戻るように促した。応じたなのはとフェイトとアルフは立ち上がり、一礼して作戦室から出て行こうと踵を返す。
 その時、フェイトはなのはと視線が合った。なのはの瞳は曇りが無い澄んだものだった。そんななのはの様子にフェイトは違和感を覚えた。雰囲気というか、表情というか。具体的にどこがとは示せないが普段とは違う気がする。
「なのは……?」
 思わず呼び止めたフェイトに、なのははにっこりと振り向いた。途端にいつも通りの笑顔のなのはになる。
「何、フェイトちゃん?」
「……何でも、ううん、頑張ろう、なのは」
 僅かな間だけ言葉を失ったフェイトは、こぶしを軽く握ってこう言った。
「うん!」
 なのはは明るく応えた。その様子にフェイトはふっと緊張を解いて微笑み返した。いつものなのはだ。なのははフェイトのこぶしに自分のこぶしを合わせて「今度は頑張るね」と朗らかに言った。

魔法少女リリカルなのは

Dispel Magic 3

 時空管理局の局員たちは、救難目標に迫っていました。
 前回の惑星降下時には予想外の敵対的魔導師が存在していて何も出来ず撤退しましたが、今度は違います。
 なのはは誓いました、今度は頑張ると。
 そんななのはを、フェイトは見守っています。

 一方、時空管理局の救難対象であるアルフェッカ・シャトルの乗組員は、偶然に発見した遺跡を探索していたのです。

 屋内は灯りが制限されているのか、非常灯のような小さな灯りが足元をところどころ照らしているだけで、全体的に暗かった。
 ロイドとマージは防護服のヘルメットに着いている作業灯のスイッチを入れた。防護服の作業灯は宇宙空間のような明るさに乏しい場所で作業をする時に手元を照らすためのものだが、角度を変えて明るさを増せば前照灯としても使えるようになっている。二人はそれぞれ足元を照らしながら、薄暗い廊下を歩いてゆく。
 屋内の探索はロイドが先導をしていた。仕事中は操船も社内雑務もマージに任せ切り、営業はこなすが怪しげな儲け話ばかり掴んで来る等など良い加減なところばかりを見てきたマージにとっては意外なことに、ロイドは元時空管理局の陸戦魔導師としてアークラントという辺境の世界で起きた紛争の鎮圧に出動し実戦を経験したという経歴を持っている。それは既にこのミリガン興産という会社を興す前のことで、今でも現役時代さながらの勘働きは望むべくも無いだろうが、こういうときにはマージ自身より信頼できそうだった。マージにとってはとても認めたくないことに。
 敵対的な生物が居ることはあまり心配していなかった。廊下は埃が溜まっており、足跡のようなものは全く見られなかった為だ。先刻のシャトルでのような不意の襲撃がある可能性は低いと、ロイドたちは見積もっていた。
 しかし安全そうに見えて何があるか判らないのが遺跡の常だ、とロイドは言った。

 つい最近発見されたばかりで過酷な環境から『無人の世界』と推測されていた第一九二管理外世界は、少なくともかつては文明があったことが遺跡の存在から判りました。
 しかし、一体どんな理由があってこの惑星は人の住めないような環境になってしまったのでしょうか。

 作戦室ではクロノが出動前のブリーフィングを行っていた。
「アースラは分析と君達の誘導を、艦長と僕は前回のとおり指揮とバックスを担当する」
 なのははクロノの言葉に頷きながら手に握ったマガジンの感触を確かめた。カートリッジを六発籠めたマガジンが一つレイジングハートにセットされている。それに予備のマガジンが四つで二十四発。合計三十発のカートリッジをなのはは持たされた。フェイトも同じようにバルディッシュに六発を装填した上に、六発のカートリッジを組み合わせたスピードローダーを四つ持っている。
 強大な魔導師を相手にした大規模な戦闘に臨むには心許無いが、後背にアースラがあり、いざとなれば救援も期待できる状況ではそう悪いことは起こらない量だ。救難任務に赴くには過剰と言っても良い。
 だが、リンディ達は敢えてこれだけの量を持たせた。
 このような大げさな措置が取られた理由は、妨害など一切無いだろうと油断していたことへの反作用、先刻の戦闘の相手だった魔導師の意図の判らない行動が警戒心を煽ったことだ。しかし何よりも第一の理由は、なのはへの気遣いだった。
「あくまで目的はアルフェッカ号乗員の捜索と救出で、戦闘は目的としない」
 クロノは出動前の三人、なのはとフェイトとアルフを前にして注意点を伝えている。
「戦闘は、妨害者が居て、どうしても説得に従わず妨害行為を続け、妨害を排除しない限り捜索と救助が行えない場合にのみ許可する。
 出来るだけ戦闘は避けて欲しい」
 三人はそれぞれ頷いた。
「魔法使用の制限は、攻撃魔法は必ず非殺傷設定で使用することだけで、他は制限しない。
 捜索であれ救難であれ戦闘であれ、必要と感じたならどんな魔法でも使用して良い。非殺傷設定だけは忘れないでくれ」

「質問は無いか?」
 なのは達は首を横に振った。クロノはそれまで黙っていたリンディに顔を向けた。リンディはにっこりと笑みを顔に浮かべた。
「気を付けてね、行ってらっしゃい」

 アルフェッカ・シャトルを捜索しながらの飛行中、レイジングハートは目的のシャトルとは異なる、別の船の残骸を発見します。

"Master, feeble magical energy is felt."(微弱な魔力を検知しました)
 レイジングハートが最初の探知を報告した。
「シャトル? それとも……」
"I'm sorry, it's unclear. But it seems not to be a magician's energy who met of a while ago."(すみません、それは判りません。しかし先ほど会った魔導師の魔力ではないようです)
 少しなのはは考え込んだ。
「なのは、行こう」
 フェイトはなのはに促した。その反応が捜索対象のアルフェッカ・シャトルのものならば、フェイト達はまさにその乗員を救う為にこの惑星に来たのだ。

 なのはは頷いた。
「うん! レイジングハート、どっち?」
 ワイドエリアサーチで得た探知目標は数キロ先にあった。飛べばすぐに辿り着く場所である。飛行しながらフェイトがアースラに探知の報告を行っていたら目的地に着いてしまった程だ。
 最初はシャトル発見が期待されていたものの、現地に着くとすぐに失望に変わった。
 地面が直線状に抉れていた。その中に崩れた船らしき物があり、抉れた地面の先に大きな円筒形の物がひとつ転がっている。この周囲にも雪は積もっていたが、抉れた地面の周辺は積雪は薄く、所々土が露出している。
 船らしきものは、事前にブリーフィングで見たアルフェッカ号とは別物であるように見えた。なのははあまり船に馴染が無く良くは判らなかったが、執務官志望のフェイトにはそれがかなり原始的なものではないかと思えた。つまり、これは捜し求めていたシャトルではない。勿論、だからといって放って置いて良い物でもないのだが。
 先に転がっている円筒は目測で直径五メートルほど、長さは十メートルほど。あちこちが凹んでいていたが、雪は殆ど積もっていない。
「こりゃ、なんだい」

 そこで、なのはとフェイトは、第一九二世界の過去にまつわる断片を見ることになるのです。

忘れ去られた魔導師
夢に呪縛された男
それぞれの因縁
それぞれの目標

魔法少女リリカルなのは

Dispel Magic 3

 それはさておき

 うん、と気の無さそうな声を返しながら、すずかは静かにアリサの横まで歩んで同じようにベッドに腰掛けた。
 どういうつもりか量りかねて、アリサはすずかの顔を見つめた。
 すずかはまっすぐにアリサを見ている。すずかの曇りの無いまっすぐな瞳が、しっかりとアリサの顔を移しこんでいた。瞬きの度に動く長い睫毛が、豊かでふわふわな良い匂いのする髪が、色の白い肌に整った顔立ちが、アリサの視界を占めた。こんな近くで見てもすずかって可愛いなんてちょっとズルイ、とアリサの思考は少し脱線し始めている。
「大丈夫だよ」
 やさしい響きが、左手への温もりと一緒にアリサへと届いた。耳元に届けられたくすぐったさと手の甲から伝わる触れ合った肌の感触が、アリサの耳を頬を一瞬で紅く染めた。すずかの小さな口が開くさまからアリサは目を離せない。
「みんなが忙しくなっても、私は、私はずっとアリサちゃんの傍に居続けるから」
 アリサちゃんが寂しく無いように私がんばるから、というすずかの言葉の続きは、最早アリサには届いていなかった。
 左手を包み込んだすずかの両手にきゅっと力が籠もったのが、アリサには感じられた。その刹那、身体が動いた。
「アリサ……ちゃん?」
 すずかはアリサの顔を見ようと首を捻った。しかし見えたのはアリサの長い髪、後ろ頭の部分だけで、顔はすずかの右肩の上にあり隠れて見えない。すずかはアリサに抱き竦められていた。
 すずかをしっかりと抱き竦めながら、アリサの心はすずかに対する感謝と友愛で満たされていた。嬉しかった。すずかが自分を大切に思ってくれていることが、単純に、嬉しい。この気持ちをどうやって表現するか、などと考える前に身体が動いたのだ。
 密着した身体を少しだけ離して、この気持ちを伝えようとアリサはすずかの顔を真正面に捉えた。
「あ、あたしも……」

 海鳴ではカップルが生まれつつあるようです。

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