Dispel Magic 4(魔法少女リリカルなのは SS本 文庫版サイズ 本文66ページ) カバーイラスト:草上明さま 奥付イラスト:牧原巌さま |
|
地表に降りたなのは達の管制はエイミィに任せて、クロノは資料閲覧室に籠っていた。
クロノには気に掛かっていることがある。たった一人でなのは達を押していた魔導師のことだ。 意図的に照明を落とした部屋の中でクロノはコンソールに指を走らせ、何度も眼を通した記録をもう一度再生させた。 モニタ上に表示される幾つかのウィンドウに空と雪原が映し出され、そして唐突に言葉が流れ出した。 「フヮスィンディエ?」 クロノにはこの言葉の意味が解らない。しかし、幾度か魔導師の言葉を聴いている内に何か引っ掛かりを感じるようになっていた。何処かで聞いたことが無かったか? なのはが似ていると言っていた古代ベルカの響き、あるいは過去に聞いた異邦の言葉、それらを雑多に思い浮かべながら聞き比べてみるが、クロノにはその言葉がどういう意味なのかどうにも判断が付けられなかった。 再び流れ出した言葉を頭に叩き込む。何かが引っ掛かるのだが、ぼんやりと感じるそれが何なのか一向にハッキリとはしなかった。頭の中に音だけがぐるぐる回っている気がした。煮詰まっている。もどかしさから来る焦りがクロノを苛んでいた。 いつの間にか組んでいた腕を解いてもう一度クロノは記録を巻戻し、もう一度最初から再生させる。 意味の判らない問いかけが聞こえ、魔導師の姿が現れた。クロノは一旦再生を停止した。 「一体君は誰なんだ」
魔法少女リリカルなのは
Dispel Magic 4
クロノは、なのは達に襲い掛かった魔導師の正体を探ろうとしていました。
「あの子にお願いするのはどうかしら?」
「あの子、ですか?」 「無限書庫に居るじゃない。こういうのに強い子が」 リンディの提案でひとりの可哀想な男の子が呼び出されたのは、そういう事情があったからのでした。
ところで救難対象の捜索に当たっている高町なのはは気が急いていました。それこそ、上司であるリンディが危ないと感じるほどに。
「クロノくん……? もしもし」
『休憩中にすまない。今、ちょっと良いか?』 相手を確認し通話を始めると、やはりクロノだった。音声通話だし、ま、いいかと思い、物ぐさではあるが、なのははベッドに寝転んだまま会話することにした。 「はい。でも、どうしたの?」 『丁度ユーノと話をしていたんだ。なのはも話したいかと思ってね。映像通信だが、そっちに回しても良いか?』 「え、ユーノくん? うん、話します、話します。で、でもちょっと待って、まって」 なのははベッドから起き上がり、寝転んだ拍子に着崩れてしまった洋服を直し、鏡に映る自分が観られることに耐えられる状態かどうかを素早くチェックした。 「はい、どうぞ」 通話の向こう側で僅かに苦笑する気配があり、光板の表示が切り替わった。ユーノ・スクライアが映っている。 『こんにちは、なのは』 「こんにちは。元気そうだね。今、お仕事中?」 背景は自室ではなく、本が乱雑に積み上がって壁を為している姿だ。勤務先の無限書庫だろうか。 『そうだったけど、今は休憩中』 「そっか……」 ユーノは不意に画面に顔を寄せた。じーっとなのはを凝視している。 「え? 何? 何かな?」 『ねえ、なのは。もしかして、ちょっと元気無い?』 なのはは一瞬言葉に詰まり、溜息を吐いて言った。 「……敵わないなあ、ユーノくんには」 『そりゃ、ずーっと見てたからね。判っちゃうよ』 「そうだね。もう、三年だもんね」 同じ頃。救難対象であるミリガン興産の一行は、相変わらず遺跡の中に居ました。
「ほう」
再びエアロックのような部屋を抜けてその部屋に入ったロイドは、目の前の巨大な施設を見上げて感嘆の声を上げた。ぼんやりと緑白色の光で照らされている室内は、遺跡の管制人格によれば動力室であるとのことだ。 「見ろ、マージ」 「……凄い」 外部から見た時、この場所は丸い円柱状の建造物になっていた。 内部は中央に高く太い円柱があり、その内部で何らかの反応を起こしているのか、光はその柱の基部から出ていた。円柱から横に様々な太さ形のパイプが伸びており、円形の部屋の中を縦横無尽に巡るようにそれらは折れ曲がり接続し分岐している。中央の円柱の周囲にはそれらパイプの他、床面に設置された様々な用途も判らない装置群が囲んでいる。 動力室が発揮する出力がどれくらいになるのか想像も付かないが、部屋の規模はロイドやマージの感覚ではとてつもなく大きいと言える程だ。次元航行船の魔力炉の数倍の規模だろうか。十倍を超えるのだろうか。誰が何の為に建物の中にこれほどの動力室を備えたのか。この建物の内部は屋外の大気とは違って、酸素が呼吸に十分な割合で含まれている。その環境を維持する為に膨大なエネルギーが必要な筈だ。 そして彼らは遺跡に遺る古代の倉庫へと辿り着いたのです。
ロイドが言うところの『ミリガン興産のシルヴァニア開発の目的』は遺失世界の異物、ロストロギアを収得し、それを販売するか貸し出すことによる利益の獲得であるので、ロイドはまず遺物が遺されている可能性が高い貯蔵庫を見たがっている。
マージも興味が出てきたので賛成した。普段なら、慎重派のマージはそのようなことには賛成しなかっただろうが、何かしらロイドを浮かれさせている熱が伝染しているのかも知れない。 床を這っているパイプやコードを避けるように動力室の反対側に向かう。そこにあった扉も、エアロックと同様の作りをしていた。潜ってみると出口側のドアは嫌に分厚い作りをしていて、マージは厳重さに感心しながら貯蔵庫に踏み入った。 防護服の内側に軽い警告のチャイムが鳴った。内臓されている温度センサが急激な気温の低下を検知したのだった。 摂氏温度で四度。それまで防護服が無くても快適な気温を保っていたことを考えると、貯蔵庫はかなり気温が低い。最初は気密が破れているのかと思った。しかし気体成分は酸素が潤沢にある。気密は守られているようだ 貯蔵庫の内部は広すぎて全貌が見渡せない。何より明かりが点いていなかった。ロイドとマージは防護服のヘルメットに付いているライトを点灯させた。貯蔵庫の見える範囲には棚がぎっしりと並んでいた。同一の規格で作られた高さ三十センチ幅十センチ程度の箱が棚の上に隙間無く置かれており、一つ一つにはラベルのような物が貼られている。ラベルに何が書いてあるのだろうとロイドがライトを向けて読もうとしたが、インクの色が褪せていてなかなか読み辛い。 苦労して読み取った文字を辞書で翻訳してみたところ、そのラベルにはツツジの一種の名前が書かれているようだった。その隣にも別のツツジの一種。いくらか歩いて別の棚の箱のラベルを読んでみたら今度は松の一種の名前。 「何、これ?」 マージの言葉は心情の素直な吐露だ。ロイドは一頻り唸って 「見ているだけでは埒があかんな。どれか一つ開けてみるか」 と言った。 「大丈夫ですか? 何が入っているかまだ判らないのに」 「何が入っているか判らないから開けるんだ」
ロイド達は箱の中に何を見つけるのでしょうか。 それはさておき。
一方その頃、海鳴市。
少女が二人、月村家の車の後部座席に座っていた。 アリサ・バニングスと月村すずか。二人は塾帰り、月村家のメイド長、ノエル・K・エーアリヒカイトの運転する車に迎えに来て貰っていた。助手席にはノエルの妹のファリンが座っている。が、ファリンは後部座席の様子を気にしている様子で、ちらちらと視線を後ろに走らせていた。 視線を隠そうという意識が無いのか、はたまた隠しているつもりでこれなのか。アリサにはファリンがちょくちょくこちらの様子を伺っているのがよく見えている。物凄く気になるし、どうしてファリンがアリサ達を気にしているのか判っているだけに小恥ずかしいから、正直なところ止めて欲しい。しかし性格を良く知っているファリンのこと、悪意は全く無く寧ろ善意(と、好奇心)に百パーセント立脚した行動であることが読み取れるだけに強く注意できる筈も無く、かといって注意しないのもちょっとなあ、とかアリサは思い悩んでいた。 (それよりも!) アリサは自分の右肩に強めの視線を遣る。そこには一方の当事者すずかがアリサの肩に首を預けて、小さく寝息を立てていた。 (どうしてこの子はファリンさんにこんなに見られてるのに普通に寝てんの!?) ああ、起こしたい起こしたい。そんな想いがアリサの中に燃え上がる。しかし寝顔を見ていると起こしてはすずかに悪いという意識も同様に沸き起こってくる。 「んっ……アリサちゃん」 すずかが小さく囁いた。同時にアリサの右手が温かく包まれる。すずかの手が、シートに置いたアリサの手の甲の更に上に乗ったのだった。 アリサは咄嗟にすずかを起こしたのかと思ったが、そのあとは再び寝息を立てるだけだった。 「もう……」 車内はエアコンが効いてはいるが、もう初夏である。すずかの手の温もりは決して不快ではないが、汗をかいてしまうのはいただけない。汗をかいてしまうのは手の甲だけではないが。あと何故か動悸まで激しくなってたりするが。 「すずか、そんなに疲れたの?」 小さく、すずかを起こしてしまわないように問いかける。 すずかの反応は無かった。 アリサは小さく笑んで、右肩に預けられているすずかの頭に自分の顔を寄せた。眼を閉じてそのまま軽く頬摺をする。すずかの柔らかな髪の毛の感触が心地よかった。 リア充は爆発したら良いと思うよ(ぇー
4巻のカバー画像など。 |