朝は一杯の唐辛子梅茶から。
 美汐は昨日の日曜日に初めて飲んでからというもの、この味が気に入っている。
 梅昆布茶のような旨みと酸味が巧く合わさったような味を期待していたら、裏切られるこの味。梅干と唐辛子がそれぞれ激しく自己主張しながら、微妙なバランスで成り立っているこの味。そして何より、飲んだ直後、舌にピリピリと来る感じが良い。
 夕方にはもう少し落ち着いた味が欲しいものだが、朝はこれで良い。神経が張り詰めて、気が引き締まるような気がする。
 最後の一口を飲み干し、美汐は湯呑茶碗をテーブルに置いた。

 ちらりと時計を一瞥。午前8時5分前。
 美汐は茶碗を台所の流しで簡単にゆすぐと、自室に引き返し通学鞄を手に取った。
 台所に向かって挨拶。
「お母さん、行って来ます」
 母の返事を聞いて、美汐は玄関の引き戸を開けた。ガラガラという音と一緒に、まだまだ冷たい外の空気が入り込んで来た。
 身震いひとつ。
 そして美汐は一歩を踏み出した。
 準備は万端。
 覚悟も上々。
 引き戸を閉じた。さあ、学校へ行こう。
 知らず知らずの内に勢いの良いリズムを取り始めた足が美汐を普段に無い速さで運ぶのを感じながら、顔が笑みを形作った。得体の知れない自信めいたものが心にあった。今日はいつもとは違う。
 いつもいつもいつもいつも美汐をからかっては遊んでいる小憎らしい先輩の姿が心に浮かんだ。
(いつもやられっぱなしじゃないですからね。今日は覚悟してください)
 恐らく登校途中で会うだろうその顔に向かって、美汐は宣言する。
 履いた靴の踵が地面と勢いの良い音を立てた。
 空は今日一日の晴天を保証するかのように澄んでいる。