(どうして、こんな格好をしなければいけないのか)
 美汐は更衣室で着替えながらひとりごちた。
 更衣室とは言っても、普通の更衣室ではない。臨時に更衣室として割り当てられただけの、そこはただの教室だった。
 文化祭、美汐のクラスは女子の反対を押し切って『バニー喫茶』を運営することになっていた──




『天野さん、言っとくけど普段のストラップ付きブラは着けちゃダメだよ☆』

 クラスの女子がそう言っていた。何故かは……納得できないこともない。スーツの端から白いものが覗いたらそれはそれは恥ずかしいだろう。しかし、納得いかないのは、その女子がなぜあんなにも嬉しそうだったのか。

(そして、何故私の胸は……)

 スーツを引き上げようとした手を止めて、ちょっと見下ろして、小さくため息。
 美汐もそこまで小さいと思っていた訳ではないが、このようなスーツを着るには心許ない膨らみが、とても情けなくなる。

 控えめな、ドアのノック音がした。
「天野さーん。もうそろそろだよ。着替え終わった?」
 クラスメイトだった。
 交代の時間はすぐそこまで迫っている。少々自分を納得させられていない部分はあるものの、致し方ない。自分の役目は果たさなければ。
「も、もう少しです。あと30秒待ってください」
 慌てる手つきがスーツの胸の部分を急いで引き上げた。と、そこに声。
「天野がここに居るのか?」
(あ、あ、あい、相沢さんっ!?)
 つるん、と指が滑った。慌ててスーツの端っこを捕まえようとするも、震える指はまったく当てにならなかった。
「あと18秒で着替え終わるそうです」
(そんなのムリですーっ!!)
「それじゃあ、陣中見舞いがてら激励してやるとするか」
「天野さんも喜びますよー」
「ふ、ふたりとも、ま、まって──」
「あ、着替え終わったみたいですね」

 みっしー、決定的瞬間まであと数秒。











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